赤ワインのアウトドア日記

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多目釣り(釣行記)

釣りと人生の大切なことを教えてくれた残間正之さん。

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赤ワインです。

僕のフライフィッシングの師匠である残間正之さんが人生という長い旅を終えた。
カメラとロッドを携えて辺境を旅し、世界中の魚を釣った伝説のフライマンであり、ジャーナリストだ。
札幌の緩和ケア病棟まで会いに行ってからわずか5日後のことだった。

2年前、父が亡くなった時にお坊さんがこんなことを言ってくれた。
「亡くなったお父様は皆さんの中に生き続けているんです」
正直そんな実感はなくて、そう自分に言い聞かせて納得するものなのかなという思いだった。

でも、残間さんの時にはこの言葉がしっくり来た。

SNSでは、残間さんと親交のあった皆さんがそれぞれの残間さんへの想いを発信していて、残間さんがタグ付けされているから次々とタイムラインに流れてくる。

それぞれが継承した「残間イズム」があって、皆の投稿を読んでいると、まるで残間さん本人に直接怒られたり、アドバイスされたりしているような気持ちになる。

これが皆の中に生き続けているっていうことなんだな、きっと。

僕もこれからも残間イズムを継承していくとともに、残間さんから教わったことの片りんをここに書き記しておこうとペンをとった。

放浪のフライフィッシャー残間正之さんとの出会いは20年ほど前。

最初はラジオ番組の「釣り情報」の原稿のやり取りだけだったが、どんな魚がどれだけ釣れているかを伝える短い原稿を読んでいるだけでも、この人に会ってみたいと思わせる魅力のある人だった。

それから懇願してフライフィッシングを教えてもらい、一緒にBBQをして、豪快に塊肉を焼く「残間肉」を教わり、大事な家族となったダックスフントの縁をつないでくれたのも残間さんだった。

心臓の手術をされてからは北海道に移住。
お会いする機会もめっきり少なくなったが、数年前からイベントの仕事で札幌に行くようになると、イベント後にそのまま休暇をとって、残間さんに北海道を案内してもらった。

残間さんは出来の悪い生徒にも、フライフィッシングのガイドをしてくれた。

「なんであれをバラしちゃうの!」と怒られたり。
「人に釣らせるのがこんなに大変だとは……」と呆れられたりもした。

そんな時、残間さんはというと、ちょっとだけ竿をふって、満足するとすぐにやめてしまう。
あとはその場にいること、自然の中にいることを楽しんでいる。

釣りの合間には、藪漕ぎをして根曲がり竹を探したり、年季の入ったMSRのバーナーでジンギスカン鍋を囲んだりもした。

「秋になれば釣りをしながら山ぶどうがとれる。これで葡萄酢を作ると美味しいから秋にもおいで」と言われて、楽しみにしていたが、これは結局かなうことはなかった。

その後も残間さんに教えてもらった川や湖に通い、なんとか魚と遊べるようになってきて、そろそろまた師匠と釣りに行きたいと思っていた頃、残間さんが癌を患っていることを知った。

癌は全身に転移して余命半年。

最後まで自分がやりたいことをしていたいと、フライロッドを片手に日本全国、世界中を旅した残間さん。

いよいよ余命1ヶ月となり、緩和ケア病棟に入った時には、もうやりたいことはやり尽くした、思い残すことはないという気持ちだったという。

最後に会うことができたのは、旅立ちの5日前。
「この日以降は家族以外とは会わない」と残間さんが宣言していた日だ。

看護師さんが病室に来訪を告げに行くと、「わざわざ東京から来てくれたのか!」と、拍子抜けするほど元気な声が病室から離れたナースステーションにまで聴こえてきた。

あとから思ったけど、これも残間流の演出だったのだと思う。
この日まではモルヒネを打たないと決めて、痛みに耐えていたようだ。

この日は、残間さんが毎週出演していたラジオの生放送を緩和ケア病棟から行い、控室では見舞いに来たみんなでラジオを囲んで耳を傾けた。

痛みに耐えながら、最後までジャーナリストとして伝えることに徹した残間さん。

生放送の後に挨拶すると、たくさんの見舞客(病院で見舞客の最高記録だそうで)がいるなかで、10分にも渡って話をしてくれた。

「赤ワインさんもジャーナリストなら最後まで伝えないといけないよね」

「赤ワインさんはなかなか魚が釣れなかったよなぁ。でも、釣りは魚を釣るんじゃない。人を釣るんだよ。フライフィッシングを通して世界中にできた仲間が僕の一番の釣果だよ」

そんな話をしながら、病室にいたいろんな人を紹介して繋いでくれた。

残間さんが最後のラジオで話していた。
「僕が余命半年ってなったら、変わったのは僕じゃなくて周りのみんなだった。周りの結束が強くなった。」

今までつながっていなかった人たちも、残間さんをきっかけにつながり出して、新しいことが始まろうとしていた。
生き続けるというのはこういうことなのか。

残間さんには、これから人生の指針、そして自分が残間さんと同じように余命を宣告されたときの心構えまで、人生において大切なことをたくさん教えてもらった。

残間さん、いつか三途の川で一緒にロッドを振りましょう。
三途の川にはいったいどんな魚がいるんでしょうね。

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